2014/08/10

河野談話はいわゆる「強制連行」の実在を認めていない

結論として、河野談話はいわゆる「強制連行」があったことを認めていない、と考えるべきである。一部の論者には、河野談話がいわゆる「強制連行」があったことを認めたとする主張があるが、大きな誤りと言わなければならない。

慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話

平成5年8月4日

いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。

われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。

慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話

河野談話はいわゆる「強制連行」を認めているか

とくに関心が高いように思われる、日本軍による「強制連行」があったかどうかの問題について、以下に私見を示しておく。

慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。

このくだりは、慰安所の設置、管理および慰安婦の移送について述べたものであり、ここから募集にあたり「強制連行」があったかどうかを明らかにすることはできない。

慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。

慰安婦の募集にあたり、官憲等が直接これに加担したこともあったと述べているが、その方法としては、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあるとする一方、具体的には「甘言、強圧による等」とするにとどまり、いわゆる「強制連行」が含まれるかどうかは読者の解釈に委ねられている。「等」の文字にそれを含むと見ることもできるが、これをもって河野談話が「強制連行」を認めたと解するのは困難であるように思われる。

安倍晋三内閣総理大臣は、2007年の答弁書において「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」としており、河野談話にいう「甘言、強圧による等」には、いわゆる「強制連行」を含まない、と考えるのが妥当である。

また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

「強制」の文字が見える、唯一の箇所である。これは慰安所の生活を述べたものであり、募集にあたり「強制連行」があったことを示すものではない。

当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。

慰安婦の募集等において本人たちの意思に反して行われたことを述べた箇所であるが、ここでも「強制連行」の有無を読みとらせるものはなく、また官憲の関与についても直接的には触れていない。

河野談話の見解は信用できるのか

官憲が慰安婦を募集するにあたり、いわゆる強制連行があったかどうかについて、河野談話および安倍答弁書の述べるところは信用できるのか。

できない。

河野談話を発表するにあたり、政府は数多く関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行っているが、その資料の中にはバタビア軍法会議に関する記録も含まれている。このバタビア軍法会議の判決事実の概要には、「一九四四年二月末ころから同年四月までの間、部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」などの記述があり、ここに記述される事実内容は、疑いの余地もなく、官憲による「強制連行」にほかならない。

このことについては、2013年に共産党の赤嶺政賢議員が質問主意書を挙げており、これに対する麻生太郎内閣総理大臣臨時代理の答弁は、2007年の安倍答弁書と同じ、つまり先に引用したように「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」というもので、これがいわゆる「強制連行」に当たるものではないとの反論をなしえていない。さりとて「強制連行」があったことを認め、河野談話を歴史的事実にもとづく方向で修正したくもないので、要するに“見落としていた”ということにしているのである。

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