今年*1、チャーチルの著作からとして次のような引用を目にすることが多々あった。
22 名前: サクソニア セミ・ポンプ(関西地方)[] 2010/09/21(火) 19:25:15.73 id:L8yTPLT30
■■ チャーチルの「対日世界大戦回顧録」より
http://kopipech.blog2.fc2.com/blog-entry-1794.html日本人は無理な要求をしても怒らず、反論もしない。
笑みを浮かべて要求を呑んでくれる。しかし、これでは困る。
反論する相手をねじ伏せてこそ政治家としての点数が上がるのに、
それができない。
それでもう一度、無理難題を要求すると、これも呑んでくれる。
すると議会は、いままで以上の要求をしろという。無理を承知で要求してみると、
今後は笑みを浮かべていた日本人がまったく別人の顔になって、
「これほどこちらが譲歩しているのに、そんなことを言うとは、
あなたは話のわからない人だ。ここに至っては刺し違えるしかない」
と言って突っかかってくる。英国はマレー半島沖合いで戦艦プリンスオブウェールズとレパルスを
日本軍に撃沈されシンガポールを失った。日本にこれ程の力があった
なら、もっと早く発言して欲しかった。
最初に見たときは、どうもウソくせえなー、と思っていたのだが『回顧録』を読んでいないので即断はできなかった。
オレはこの文章のどこにウソの匂いを感じたのだろうか。
それはここに描かれる日本人のイメージが、イギリス人によるものというよりは、日本人によるセルフイメージにあまりに一致しすぎるからだ。多くの日本人は、自分たちが我慢強く、謙虚だと信じている。欧米人が力づくで難癖を押しつけてくるので、我を抑えているのだと信じている。なにも言わないが、正当性はこちらにあると思いこんでいる。ここで語られる日本人のイメージは、日本人によるセルフイメージにぴったりだ。しかも、このイメージは戦前の日本人ではなく、戦後の日本人のセルフイメージだ。
いちど、ウソくせえと思ったら、いろいろなところで怪しい匂いが立ってくる。たとえばチャーチルが、自国の主張を「無理難題」と呼んでいるところがウソくさい。どこの国に、自国の主張を無理難題と呼ぶ元首があるのか。
また2隻の戦艦を失ったことを嘆くまではまだよいとして、「日本にこれ程の力があったなら」というところがウソくさい。これでは、あたかもイギリス首相が日本の戦力を事前調査しないで戦争を始めたかのようだ。普段は物静かだが本気を出すと手強い、というのは典型的な日本人のセルフイメージにすぎない。
チャーチルが引用する「ここに至っては刺し違えるしかない」という日本人の言葉もウソくさい。いかにも日本人が使いそうな言いまわしだが、それをイギリス人がどうして熟知しているのか。日本の戦力すら見誤ったほどなのに、どうしてこういう日本人しか理解できそうにない微妙な言いまわしだけが完璧に日本人が言ったように記録できるのか。
イギリス国民にも読ませるものなのに、2隻の戦艦を失った理由を、日本人の性格のせいにしたり、それを自分が見誤ったせいにしたりしている。そんな『回顧録』が実際にありうるのか。
日本政府の外交姿勢を論じる内容なのに、「日本は」「日本政府は」と言わず、「日本人は」と言ってるところもおかしい。まるで、日本人が日本人によるセルフイメージを反芻するために作られたような文章だ。
オレは『回顧録』を持ってないし、読んだこともない。だから、本当はこのようなことが書かれているのかもしれない。
190 :WiLL2005年8月号『繁栄のヒント』日下公人:2006/08/07(月) 04:47:57 ID:2KPrbgCs
チャーチルの『第二次世界大戦回顧録』のなかにこんなことが書いてある。(引用省略)
これは、昭和十六(一九四一)年十二月十日、マレー半島クァンタンの沖合いで、イギリスが誇る戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスの二隻が日本軍によって撃沈されたときの日記だが、チャーチルは、これによってイギリスはシンガポールを失い、インドでも大英帝国の威信を失うのではないかと心配しながら書いている。
チャーチルは、「日本にこれほどの力があったのならもっと早くいってほしかった。日本人は外交を知らない」と書いている。つまり、日本は相手に礼儀を尽くしているだけで外交をしていない、外交はかけひきのゲームであって誠心誠意では困る、ということらしい。
http://mechag.asks.jp/187345.html
日下公人さんが雑誌『WiLL』に引用してから流行しはじめたらしい。
昔から有名なコピペですが、大学の研究書庫で当該文書を探してもその記述が見つからないのですよ。具体的な引用箇所を知っている人はいませんかね? RT @azukiglg RT @Manualmaton: このチャーチルの言葉が有名ですよね。 http://bit.ly/pFzOsv
— 荻野浩次郎 (@orijox) August 8, 2011
実際に『回顧録』を調べたひとが、そんな記述はなかったと言っている。このひとがウソを言っているのだろうか?
「35歳で保守主義者でなければ智慧がない」
あわせてチャーチルの名言「35歳で保守主義者でなければ智慧がない」はガセもどうぞ。
2012/12/24
Yahoo!知恵袋でも同様の疑問を抱いたひとが質問を投げかけている。質問者、および回答者、ともに『第二次世界大戦回顧録』にそのような記述はないと言っている。
チャーチルの第二次大戦回顧録にはこのような記述はありません。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1483562024
また第二次大戦に至る経緯・日英関係から鑑みてこの内容自体が不自然です。
日下公人による創作なのか、日下公人を騙った創作なのか
それともそれ以前から既にあった文章なのか。初出を知りたい。
さて、この記述はおっしゃるとおり、第二次大戦回顧録にはありません。というか、文体からして違いすぎます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1483562024
*1:去年からかもしれない。引用文の日付からそれ以前から流通していたことは分かるが、爆発的に普及しはじめたのはここ最近のはずだ。
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